ロシアの今後に関するロシア連邦保安庁(FSB)内通者のメール

ロシアから現在はフランスと思われる地に亡命した、ロシアの人権・反体制活動を行うVladimir Osechkin氏が解説したブログ、gulagu-netにロシアのKGBの後継団体の一つであるロシア連邦保安庁FSB)の職員が、ウクライナ戦争が始まって以来、定期的に内部事情を暴露した一連のメールを公表してかなりの時間が立つ。

信憑性に関しては、ここ数年国際的に大変信頼高いBellingcatというイギリス発の調査報道サイトの編集者は、独自に元FSB職員と現役のFSB職員に確かめて一連のメールは確かにFSB職員による内通と特定したようだが、まあ、どの程度の情報を掴める立場にいる職員かもわからないので素人としてはその内容の真偽に関しては 判断はできない。

ただ、最初のメールはこのブログでも翻訳したのだが、その後の経緯を考えると、かなり真をついている(ロシアのウクライナ開戦は軍事のプロではなく、プーチン周辺のとりまきで計画されたなどのいきさつ)。  

一方で最近のメールには「この秋に中国は台湾統一のための戦争開始を考えていた」という内容があり、中国専門家からは、信憑性に疑問符が投げかけられてもいた。

その意味で玉石混交の情報と捉えなければいけないし、今から15年前にユン・チアンという中国出身の著述家が「マオー誰も知らなかった毛沢東」という本を出版したときに、「張作霖爆殺事件は関東軍ではなくKGBの仕業」というのをソ連の資料をもとに確認した、と書いたことがある。そしたら、「それー」と日本の右の歴史修正主義者が食いついたところ、どうもソースは戦後のブルガリアかどこかで酔っぱらったKGB職員のほら話が元だったいうことがわかったケースもある。

なので、たとえこの内通メールが本物だとしても、どのくらいの内部情報を把握できるレベルの職員なのか、またどれくらいが主観的な意見なのか見極めなければいけないが、ちょっと面白そうな内容が4月12日にgugalu-netに届いたメールに書いてあったので翻訳して紹介する。

実は、以前はgulagu-netのロシア語の文章を直接英語にAI翻訳サイトで翻訳して読んでいたのだが、訳がものすごく不安定で意味も読み取れない部分が多かったので、全く個人的興味で読んでいただけだった。

ところがこの前、ふとドイツで図書館員をしていてロシア語もある程度理解していた母が「ロシア語とドイツ語の翻訳の相性はいい」という言っていた言葉を思い出して英語ではなくドイツ語にAI翻訳したところ、レベルが全然違っていたので紹介する気になったというのも正直な話である。

さて、今回の内通メールはチェチェン人の軍閥?といっていいのか、プーチンにもっとも近いといわれるラムザン・カディロフに関してである。なぜロシアにほとんど民族抹殺の目にあったのに、その有力者がプーチンに一番近いと言われているのかは、個人的にも謎であった。

全部英語なのだが、カディロフがどのようにチェチェンとロシアでのし上がったのか、現在のウクライナ戦争でどのような役割を果たしているのかを知るのには、ロシア出身でウィルソンセンターの研究員、Kamil Galeevさんのツイートのスレッドを読めば背景がわかると思う。

 

https://twitter.com/kamilkazani/status/1497612331953577991…

 

 

カディロフと今後の戦争の見通しについて

022年4月12日のメール

件名:カディロフと戦争について
宛先:Gulag公式チャンネル<________@gmail com

ウラジミール、今日は!

 

カディロフは最近、非常に注目を集めているが、そこでこの人物について徹底して考えてみたいと思う。まず隠し事はしない。正直な話、彼に対して私には予断がある。でも個人的好悪を交えない、分析を試みたいと思う。

 

確かに、彼のいわゆる特殊部隊の一部は攻撃に参加しているが、カディロフは自分の準軍事部隊の活動を(「特別軍事作戦」の一部として)かなり以前からメディア活動に限定している。なぜなのか、できるだけわかりやすく信頼性の高い説明をしてみたいと思う。

 

・彼のいわゆる特殊部隊には彼の軍事的基礎をなす「カディロフ部隊」のエリート隊員はほとんどいなく、「チェチェン人の志願者」、それに警察部隊の一部等々が主力をなしている。

 

チェチェン人の戦闘協力はほとんどロシア軍の背後やドンバス・ルガンスクの親露部隊の背後で行われている。いわゆる「みせかけの戦い」だ。

 

・ロシア軍の指導部もドンバス・ルガンスクの親露部隊も、「チェチェン人のエリート部隊」がどこにいるのかをほとんど把握していない。

 

しかし、チェチェン自体には、現在、非常に活発な軍事的動きがあり、詮索の目から最大限に隠されている。ラムザン・カディロフが、内部の不穏、それから外部の脅威から自分の身を案じていると考えるあらゆる理由がある(我々の部局を含む、あらゆる部局で活動にあたる無数のイングーシ人がいる)。でも事情はもっと複雑かもしれない。

 

カディロフはロシアにおける内戦の必然性を認識しているだけでなく、分裂の可能性を積極的に押し締めていると考える理由がある(タカ派ハト派の分裂を利用)。彼は同時にこの分裂を悪化させて熱い状態にし、分裂が始まったときにそこから噴き出すであろう大きなマグマの力の支持を得ようとしている。

 

再び内戦についてだが、現在の実情は、この国に2つの選択肢を残している。一つは今までの間違った判断による結果が重なって、完全に崩壊することだ。もう一つは、内戦を機会に、国家の基本的設計の解決に飛びつくことだ。

そのような現実を主張することは、実は我々の部局の敗北を認めることでもあるのだ。だから、このテーマはまだ展開したくない。心が痛むから。

 

カディロフ自身は、ウクライナ、ドンバス、そしてこの作戦/戦争全体について関心がない。彼はすでにこの戦争/作戦は自分の計画の一要素に過ぎない別の現実を考えている。彼は多大な権力を背後に持つ愚か者と考えられていたが、彼ははるかに狡猾であることが判明してきた(ここで彼のことを賢いとは言いたくない)。現在、ラムザンは、(私たちが最近まで考えていたように)防衛のために閉じこもるのではなく、攻めに転じるつもりで、加速度的に計画を構築しているところだ。

実際、彼はロシア軍の軍事的失敗の主な受益者になるだろう。これから始まるドンバスの肉弾戦では、彼は自分の戦力をなるべく危険にさらさず、なるだけ無傷のまま保持するだろう。それに対して、残りのロシア軍はどのような戦果をあげても、著しく消耗し、疲弊する。

「必ずキエフに行進する」という最近の彼の自信満々の発言は、理論上でのみ可能な結果を想定しなければ、勝利の欲求を抑えられなくなったロシア社会における戦争支持者への裏切りとなるであろう。

我が軍がドンバスの戦いに勝利したとしても、戦力の弱体化のために、回復のための休止、それから陣地を固定し、緊急の兵力補充を行う必要性があり、しばらくはそれしかできないことになる。一方で、我が国に課された経済制裁のため、短期間で失われた技術的物的損害を回復することは非現実的だ。それに勝利を得るためにはもはや、非通常兵器の大規模な使用なしには不可能である。この種の近代的な衝突(シリア、イラク)の経験から、ロシアにとっての損失は、せいぜい10分の1とは言わないまでも、8分の1であろう。そのため結果を考えれば検討しない理由は何もない。これは「技術的に可能」である場合であり、かならずしも確実ではない。そのうえ、これに関しては関係者全員の同意がまず必要であり、これはかなり難しいであろう。さらに、技術的な可能性が「希望事項」に対応していることが要求されるのだが、ここですべてがつまずくだろう。実際にミサイルを発射するときに、発射地域に逆にミサイルを打ち込まれて愉快な結果とならないようにしなければいけない。それにまずはミサイルがちゃんと飛ぶかどうかだ。

つまり、カディロフはドンバス戦の後、自分が国内で最も強力で戦闘力のある武装勢力を保持することに気づくことになる。しかし、そうなると、誰も訳がわからなくなるような大騒動が始まることになる。前世紀初頭のロシアでは、ボルシェビキは本格的な勢力ではなかったが、個々の貴重な協力者の存在という状況を適切に利用し、タイミングを誤ることなく行動した。混乱した状況は、それまでチャンスがなかった人たちにチャンスを与え、状況に対して準備を整えていた者に機会を与える。

同時に、カディロフは「ロシアの愛国思想」の本当の信奉者ではない(彼の言う「自分たちはプーチンの歩兵だ」というほら話は、すべて愚か者向けの作り話である)。ロシアを丸ごと飲み込むことができれば、彼らにとって相当程度理想的な成功であろうし、まあ、条件付きで「コーカサス首長国」しか作れなかったとしても、カディロフと、この構想のために今非常に静かで整然とした地ならしを行っている人々にとって、これでは不十分だと誰が言うだろうか?実際の分析はすべて、混乱(内戦、総崩れ-ここでは冗長表現が許される)の始まりで終わる。どう見ても、カディロフはこの特別な計画のために他にはない準備をしている。他のすべては、彼の真の計画を隠すために作られた情報のばらまきである。

プーチンは、軍事、社会、経済などあらゆる便宜の上に政治的要求を置くことによって、自ら今回のロシア問題の危機を作り出したのである。我々には戦略がない – 上から広範な要求があり、「今すぐにでも達成するであろう」というスタイルでのみ、積極的な報告や計画が求められる(だから「分析」であって、本当の分析ではないのだ)。二週間前には、今回の危機によって、国のトップが責任ある一歩を踏み出し、状況を見極め、現状に対する真の解決策を探らなければならないという希望があった。しかし、その代わりに、キレてしまい、何としても負けを回収しようとするプレーヤーのような振る舞いが見られる。そして、誰も止めることができず、側近は彼を甘やかしてしまう(うちの部局の者が這いつくばっている様を見せたかった..)。

そして、特にカディロフは今、この問題から飛び出してきた。彼は他の人よりも大きな声で同意し、キエフへの進軍について他の人よりも大きな声で叫んでいる。しかし、今、彼こそ私たちが抵抗する力をもう持っていないような突破口を準備しているのだ。そして、これからの混乱の中で、古いものを失わず、新しいものに食らいつくための「強い手」に早くもしがみつこうとする勢力も多く出てくるかもしれない。しかし、この強靭な手は、勝利の後に彼らに見事にナイフを突き立てるということも事実だ。それは、どこか遠くの「美しい場所」で行われるのだろう。

しかし、ロシアで今現在この話をすることはできない。これをレポートに書くこともできない。何らかの大規模な対応もできない。Galich*がどうなったか覚えているか?

 

"そして、あなたは地上で狼を繁殖させる。

そして、しっぽを振ることを教える

そして、そのために代償を支払わなければならない-。

つまり、後になって知ることとなるのだ

そういうことだ”

 

つまり、カディロフはすでにこの「後」にいつでも対応できるように準備しているのだ。

それなのに我々は「裏切者」を捕らえるよう命令されている...一体全体どうなっているのだか。

個人的にはこれ以上、事態を防ぐ方法はないと判断し、「調査モード」に移行する…..

 

* Oleg Galichはカディロフの組織犯罪を追求していて逆に免職となったロシア内務省の調査官

 https://www.themoscowtimes.com/2014/11/24/kadyrovs-envoy-says-ready-to-testify-by-phone-after-evading-arrest-in-moscow-a41672